閃光のベルゼトーレ/2話

・月面都市――シューベテューレ第一技術地区。
・その中央に佇む『月の守護者(ムーンガーディアン)』本部ビル、その地下格納庫。
・ずらりと並ぶ人型の機械、A.F.X.――Another.Figure.Xekustend.(アナザー・フィギュア・ぜクステンド)。
・合計六機あったはずのその数は、いまでは三機に減っている。
・残っているのは緑、白、黒。
・今はいない赤、青、金の三機は、少し前に出撃命令を受けて出撃していた。
・格納庫の中央に伸びるパイロット専用通路。
・そこに二人の少女のシルエット――互いに銀色の髪をしている。
「……今回は『小隊系』だって言うけれど、それにしてもこの不遇はあんまりだわ」
「し、仕方ないよぅ……。A.F.X.を全機出撃させるなんて事、滅多にないんだし……」
・強気な口調で、胸の前で両腕を組んでいるロングヘアの少女。
・名をミリア・フローラル。
・一方、それに対し弱気な口調で答える、おどおどとしたショートヘアの少女。
・名をセシル・フローラル。
・二人の外見は、髪の長さを除いてまったくの瓜二つ。
・ミリアとセシルは一卵性双生児――いわゆる『双子』の姉妹である。
「お城のお守りも必要だって事? ふん、そんなの近くに現れてる怪物を全部やっつけちゃえば同じじゃない」
「ミ、ミリアちゃん……怪物じゃないよ、『火星からの侵略者(マーズ・アライバル)』だよぉ」
・『火星からの侵略者(マーズ・アライバル)』。
・火星を人の住める環境に開拓する『テラ・フォーミング』から約百年が経過した頃、火星と地球の間に住まう人々の意識の違いから偏見や差別が生まれ始めていた。
・そして現在――『テラ・フォーミング』から百三十年ほど経った今、火星と地球の交流は完全に断たれ――『第一次宇宙戦争』が勃発していた。
「めんどいじゃん。マーズ……なんたらだとかいちいち覚えてらんないし。A.F.X.の正式名称だって、あたし覚えてないわよ!」
「い、いばれる事じゃないよぅ」
「いーの。あたしは『選ばれし子供』なんだから。セシルもちょっとは自覚あるの?」
「あ、あるよ。ぼくだって、ミリアちゃんと一緒なんだから……」
「ふぅん。それならいいんだけどね」
・退屈そうに頭の後ろに両手を載せて、ふらふらと歩き始めるミリア。
・それを追いかけるように歩き出すセシル。
「あーあ。退屈だわ……」



・一方、出撃命令を受けた三機のA.F.X.――赤、青、金。
・赤のA.F.X.に搭乗している桃色の髪の少女、御凪・アリサ。
・コックピット内部に装備されている通信機に向けて口を開く。
「フィオナ、周囲に敵影反応は?」
《今のところは無し、ですわね。御凪さんはそのままミレーヌさんと周囲を警戒しながらその場で待機していて下さい》
・ザザ……と通信機のノイズ音と共に、聞きなれた少女の声が返ってくる。
「うん、わかった」
《待機でいいのかい、お譲ちゃん? あたしゃ、もうちょっと積極的に行くべきだと思うんだけどね》
・フィオナとは違う、通信機越しの声――ミレーヌ・リカルド。
・年齢はその口調に似付かぬ十六歳――A.F.X.チームの中では最年長。
《お譲ちゃんは止めて下さい、ミレーヌさん。とにかく今は敵の動きが見えない限り現状維持で待機。これは指揮官であるわたくしの命令です》
《へーいへい。そう言われちゃ、あたしゃなんも言えないわ》
・指揮官機であるフィオナの搭乗するA.F.X.は、後方から索敵、指揮。
・一方、戦闘機であるアリサ、ミレーヌのA.F.X.は、前線にて待機、敵の動きとフィオナの指示を待つ。
・そんな受け身な陣形が気に食わないのか、ミレーヌは少し気が立っているようだった。
「ねえ、フィオナ。それなら、わたしが先行して偵察してくるって言うのはどうかな?」
・アリサ、突然の提案。
・だが、通信機の向こう側からは飽きれたような溜め息と――別の笑い声。
《あははは、アリサにしちゃ積極的な提案だねぇ! そう言うの、あたしゃ嫌いじゃないよ!》
《……御凪さん、話を聞いていませんでしたの? わたくし達はこの宙域で待機。敵の動きが見えない以上、ヘタに動けば痛い目を見るのはこちらでしてよ?》
「うん、解ってるけど、それは複数で行動した場合だよね? でもわたしの機体なら……」
《それは、そうですけれど……危険な事に変わりはありませんわ》
《指揮官様の命令は絶対だ、ってね。残念だけど諦めなアリサ。あたしだってそうしたいのは山々だけどさ》
「……そうだね。うん、変な事言ってごめんね」
・複雑な沈黙。
・アリサとしては、特別フィオナの指示に不満がある訳ではない――が、ミレーヌの言っている事も解る。
・どちらが正しいかは解らない。
・だから、苦し紛れに出た言葉が……あの提案。
・苦し紛れとは言えども、根拠のない提案ではないのだが――
《……! レーダーに反応! 三……四……五……! まだまだいますわ!》
・突然の張り上げた声――フィオナ。
《やっとおでましかい。待ちくたびれたよ!》
歓喜の声を上げるミレーヌ
・送られてきた敵の位置情報を見たのか、命令も待たずに突貫。
「フィオナ!」
《解っています! 御凪さんはミレーヌさんの後を! わたくしは後方から指示を出します。敵の数は今送ったデータを参照。武装の転送を本部に要請します。武装は――》
「A.S.ライフル、それとF.グレネードを!」
《――無難な選択ですわね。すぐに転送を開始させます。御凪さんはその間に敵集団へ接近するミレーヌさんと合流を!》
「了解!」
・バーニアを噴かせ、アリサのA.F.X.が加速。
・先行する青のA.F.X.――ミレーヌの機体『カイゼルトーレ』の背中を追う。



・『月の守護者』本部、作戦司令室――オペレータールーム。
・響き渡るアラート音。
・モニターに映し出される戦闘宙域のレーダー情報。
「――『エグゼ』から武装の転送要請が来ました! 『ベルゼ』にA.S.ライフル、F.グレネード。『カイゼル』にはX.O.シュナイダー。これより転送作業に移行します。転送まで約九十秒!」
・ひとり、女性の管制官の声が室内に響き渡る。
・室内は広く、数多くの管制官がモニターに向かっている。
・それらを眺めるように、一番高い部分に位置する場所に立つ一人の男――
「急げ! 『エグゼ』から送られてきたデータを見るに、A.F.X.三機では足りんかも知れん。白と黒――『シルバ』と『テルス』にも出撃準備を! あの双子はどうしている!」
「現在居住区にて待機中、出撃まで五分は掛かるかと思われます」
「そちらも急がせろ! それと全フロアに通達。ここが敵に襲撃されないと言う保障は無い。スタッフは速やかに地下居住区へ避難させろ!」
「ハッ!」
・男――イアン・リカルド最高司令官。
・白い軍服。
・少し伸びた黒い前髪。
・その前髪に隠れるように秘められた強い瞳。
・年齢はすでに三十を超えている。
・年相応の太い声で彼が指示を出す――即座に反応し、対応する管制官達。
(それにしてもX.O.シュナイダーとは……我が娘ながら大胆な選択だな)
・フッ、と微笑を浮かべるイアン。
・リカルドの姪、娘と言う言葉の意味するもの――ミレーヌ・リカルドと、イアン・リカルドは親子であった。
・だが、イアンにとって父親が娘を戦場へと送り出す事への危惧は一切無い。
・あるものは信頼――そして自信。
(さて……見せて貰うぞ。A.F.X.チームの実力を)


――第三話へ続く――