Fate/End of extended プロローグ

 ―――この世の終焉とは、果たして何処にあるのだろう。


「な、なんだよアンタ。なんなんだ、その格好は……!」


 ―――追い求めても決して届かない境地、この世全ての理想の果て。


「召喚に応じ馳せ参じました。さて、一つ質問を―――」


 ―――そんな場所を、もし、垣間でも見る事が出来得るのであれば、


「―――貴女が、この私のマスターで間違いありませんね?」


 それこそ。神の領域に脚を踏み入れるに等しい―――。



Fate/End of extended―――/Page.00 "Prologue"



 あたし、暮宮円(くれみやまどか)は今年で十六になる。学歴で言えば高校二年。そうでないものから観れば、もう立派な大人の段階に踏み入る年頃って奴だ。
 ただし、一つ言っておくけどあたしは現在学校には行っていない。いわゆる中途退学者って奴だったりする。高校に入ったのはいいものの、環境そのものに馴染めず、嫌気がさしちまったってところ。


「リーダー、そろそろ時間ですー」


 と、少し物思いに耽っていたら背中越しに聞きなれた声が聞こえてきた。この声は、―――同僚のイスカだろう。
 イスカ、とは正式な名前で書くと交喙と書く。不桐交喙(ふどういすか)、それがあたしの築いたレディース「鷹の爪」のメンバーの一人。
 リーダーと呼ばれているこのあたし、暮宮円は、その名の通りこの鷹の爪のリーダーである。


「おう、イスカ。いつもより早いじゃないか、珍しいね」


「いえいえ。そうでもなかったりするわけです。リーダーがただぼけーっとしていた時間が長すぎるだけです」


 言われて気付いて時計に目をやると、確かにもう時間になっていた。
 ふむ。少し考え込んでしまってたようだ。


「アンタな……たまにこうして褒めてやってるのに、そうやって揚げ足取りしかできねぇのか。……ま、今回は確かにあたしの不注意なんだけどね」


「へへ。最近のリーダーはなんだか恋する乙女ってなカンジで、気付けばぼーっとしてますよね。何かあったんですかー?」


「別に。何もねぇよ。……そうだな。そういや最近、好きだった歌手が死んだっけ」


「それはご愁傷様で。ぼくはそこんとこ全然詳しくないんで、よく解りませんけど。好きな人が死んじゃうってーのは、やっぱり悲しいもんですね」


「そりゃな。イスカだって経験あるだろ。アタシが最初に経験したのは……うん、両親が死んだときだったか。ありゃ、なんだか子供心ながらに涙がぽろぽろ出てきて、悲しいって気持ちももちろんあるけど、それ以上に不安があったわけよ」


「はあ。不安、ですか?」


「うん。親が死ぬとさ、今まであった生活とか全部ぶっ壊れちまうだろ。だからこれからどうしたらいいのかとか、一人っ子だっただけに悩みまくっちまったね。その日の晩はずっとそんなことばっかり考えてた」


「それは……親不孝じゃないですか、さすがに」


「ま、そうかも知れない。正直に言って、あの頃のアタシはそこまで両親を慕っていなかったから。いや、まあ、確かに好きではあったけど。こうしてアタシを生んでくれたのはあの母親なわけだし、ここまで育てるために働いてくれたのはあの父親なんだから。でもさ、やっぱ子供だったんだよね。昔のアタシって。だから、親の死ってのが本当の意味で理解出来てなかったのかも知れないな。……今でも、良く解らないけど」


「親の死に純粋に悲しむよりも、自分の将来の不安に悲しむのが優先されるって子供も珍しいと思いますけどねー、ぼくは。ま、それは人の個性だってことでしょーけどね。リーダー、なんとなくそう言う雰囲気ありますし」


「あ? それじゃまるであたしが仲間のこと何も考えないで突っ走ってるみたいな言い方じゃねぇか」


「そのまんまです!」


 思わず吹き出してしまった。
 確かに、イスカの言っている事には納得出来る部分もある。


「っと、なんか余計なこと話してたら時間過ぎてるじゃねーか。行くぞ、イスカ。毎夜の『お出かけ』の時間だぜ」


「はぁい、リーダー! どこまでも着いていきまっす」


 そうして、あたしは適当に放っていた上着の袖に腕を通す。
 ―――さあ。走りの時間だ。


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