Fate/End of extended Page.01

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 暗闇に包まれた、広くも閉鎖的な空間―――路地裏。
 辺りに人影は無い。
 いや―――無い、とは言えないが、無いという事に何の変わりも無い事は事実であった。


「アカネ……、シズカ……。イスカまで、皆……どうして」


 その中心に一人佇む―――少女、暮宮円。
 周りを見回せば、そこにいるのは仲間の群れ。


 ―――ただし。生きていない、と言う前提の上で。


 飛び散っている赤いモノは、まるでペンキのように地面を赤く赤く塗りたくっている。色のない地面など無いくらい、そこには血の海が広がっていた。


「最後はオマエだぜ、リーダーちゃん」


 遠く―――だが近くから聞こえるその声は、くぐもった男の声だった。
 円は声のする方向に首を向け、睨み付ける。鷹のごとく、鋭い眼光で。


「アンタ……、どうしてこんな事を……ッ!」


「あ?『どうして』だなんて訊いてくれるなよ小娘ェ。簡単だろ、それは俺が殺人鬼だから。それ以上の理由なんて、説明する為に必要かァ?」


 円は立ち尽くす。
 今、この場で生き残っているのは円只一人。それ以外、レディース「鷹の爪」のメンバーで生き残りは存在していない。
 足元に飛び散っている肉片、かろうじて原型を止めている程度の死体。
 ついさっきまで、一緒に走っていた同僚達―――その、無惨で残酷な光景は、円の気をおかしくさせるのに十分な効力があった。


 ―――どうして、こうなってしまったのだろう?


 目の前の殺人鬼と名乗る人物―――いや、果たしてこれはヒトと呼ぶに相応しい存在なのかは怪しい―――は、外見だけで見ればただの人間に見える。
 だが、それは外面だけで判断した結果の結論に過ぎない。
 本当に一瞬だった。
 何が起こったのか、理解するのに時間が掛かりすぎて、一体どれくらいの時間が過ぎたのかは覚えていないけれど。
 この殺人鬼が、彼女達を殺すのに一体どれだけの労力を使ったのか。
 ―――労力を使っている、と言う判断も間違いかも知れない。
 この男にとって、殺人は呼吸をするに等しいレヴェルの問題なのだろう。


「……こん中から魔力のある人間を探し出せっつってもなァ。俺にはそんな事わからねェし。なら、全員殺しちまえば済むってモンだよなァ?」


 何を言っているのか、最早理解する事すら難しいこの殺人鬼―――そんな存在を前に、円は身体が動きさえしない。


「殺人鬼は殺人鬼らしく―――ヒトを殺して殺して、殺しまくってやるのが一番だと思わないか、オマエ」


「狂ってる……。アンタ、心底狂ってるんだよ……!」


「言ってくれるなァ。死に急ぎたいなら急かしはしないが―――」


 殺人鬼は手に持ったナイフのような刃物を構え、


「―――最後の一人なんだ。せっかくだから、趣向を凝らせて貰うぜ」


 ―――殺られる。
 このまま、他の仲間達と同じように。四肢をバラバラにされ。内臓を抉り出され。悲鳴すらあげることの出来ない、肉片となるまで八つ裂きにされて。


 死にたくない。


 イスカ―――最後の最後で、身を呈して自分の事を庇ってくれた、足元で倒れている少女は、最後にこう言った。
 ―――生きてください、と。


「あ……あ」


 逃げなければ。
 敵う相手ではないことは承知の上だ。それなら、なんとか上手く逃げなければ―――死んでしまう。


「ハ―――ッ!」


 死にたくない。


 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない―――!


「な、んだと?」


 目の前まで迫ってくるナイフに、思わず目を閉じてしまっていた。
 だが、それは届くことは無く、


 ―――聴こえるのは、戸惑うような殺人鬼の声。


「見つけたぞ、アサシン」


 声が聞こえて、円は目を見開いた。
 そこには―――


「セイバー……ッ!」


 殺人鬼が、叫ぶ。
 暮宮円の目の前に、一人の金髪の少女が立っていた。


「このように派手に動いて、まさか見つからないとでも思ったのですか。……そうだとするなら、この私も舐められたものだ」


「チッ……、俺のマスターは何をしてやがる!?」


「―――さあ。少なくとも、生きてはいるようですが。こちらのマスターも甘いもので。貴方がいまだ限界していると言う事は、そちらのマスターはまた健在でしょう」


 金髪の鎧姿の少女は、まるで物負いせずに殺人鬼に向かって言葉を発している。
 まさか。あの殺人鬼が、この少女に対して恐怖しているとでも言うのか?


「―――それで。サクラ、そちらのほうはどうなったのですか?」


「……何!?」


 金髪の少女が声を掛けたその先に、一人の女性が立っていた。
 殺人鬼は、驚いたかのようにその場を飛び退いて、金髪の少女と、青髪の女性の間から距離を取った。


「ええ、こっちは大丈夫。あの程度の相手ならガンド並の魔術で十分よ。まあ……余り気軽に殺したくはないから、今は気絶させてるんだけど」


 ―――いったい、どう言う事なのか。
 事態は思わぬ方向へと向かっているようだった。


「ッ、あの役立たずが。だから隠れておけと言ったのに……!」


「隠れていても、探し出すのは安易ですよ? 殺人鬼さんのような隠密スキルがあるわけでもない。令呪が存在している以上、魔術的感知は簡単です。もちろん、きちんとした魔術師ならばその程度の気配、隠しきってしまうのでしょうけど」


「……サクラ。ここは酷い。早く事を済ませて、早急にこの場の対処をしたいのですが」


「そうね。―――セイバー、逃がさず殺して」


「はい」


 そう応じて、金髪の少女は殺人鬼に向かって走り出した。


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