Fate/End of extended Page.02

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 今、このあたしの目に映っている光景は―――まるで異世界に迷い込んでしまったかのようなモノだった。


「はぁあああっ!」


 爆風が巻き起こった。
 金髪の少女が腕を振るうたび、地面は割れ、風が吹き荒れる。だが、殺人鬼であるあの男―――どうやら敵対しているようだ―――は、その攻撃を避けているらしい。


 ―――いくらなんでも、これは酷すぎる。
 その二人が一体どうしてそんな事をしているのか、どう言った関係なのか、そんな事は最早思考するに至れない。
 何が酷いかって、それは、その力の差だった。
 どう捉えるかは人それぞれだとは思うけれど、このあたしが、この目で見ている限り―――その力の差は圧倒的であった。


 しかも。明らかに見て解る。
 あの金髪の鎧を纏う少女は―――手加減をしている。あの殺人鬼のためではない。周囲に被害を与えないよう、最低限の力加減であの殺人鬼と対峙しているのだ。
 それで、十分だと言うように。


「……良く、見ておいて下さいね」


 その時だった。
 あたしを抱え、あの「戦場」から離れた場所へと避難させてくれた女性―――間桐桜が呟いた。


「円さん、でしたよね。貴女はこの戦いを見届けなくてはいけない。―――聖杯戦争に参加する一人のマスターとして。サーヴァントの気まぐれで仲間を失ってしまった、一人の少女としても」


「聖杯……なんとかだとか、サーヴァントだとか―――いったい何なんです? あたしは夢でも見てるんじゃないかって気分なんですよ、今……」


 互いに自己紹介を済ませているだけで―――今、この状況が一体どういうものなのか、あの殺人鬼や金髪の少女は何者なのか、この間桐桜という女性が一体どういった存在で、マスターだのサーヴァントだのという単語は何を意味しているのか―――何も知らない。あたしは、何も解らない。


 あたしの手の甲にある日唐突に浮かび上がったおかしな模様―――その日出会った一人の女性―――彼女が言っていた、マスターと言う言葉。
 今、間桐桜が呟いた、マスターと言う名―――それがもし、あの時の女性が言っていたものと同一のものなのだとするなら。
 あたしはまさか、あの日から、こんな事に巻き込まれると決まっていたのか?


 ―――冗談じゃない。勝手に自分の歩くレールを選ばれるなど、そんなことはあたしは認めない。
 まして、同僚であるこの子達を巻き込むような未来など、望んでなどいなかった。


「終わりだ、アサシン!!」


 金髪の少女の怒号が響く。
 そこには、追い詰められた殺人鬼と、今まさに止めをさそうと構えている鎧の少女が立っていた。


 ―――これは。
 こうもあっさりと、他人の手で、敵討ちが果たされてしまうのか。


(なんだよこれ、まるであたしは部外者じゃないか……!)


 別に、邪魔をしたいわけではない。
 でもあたしは、やっぱり他人の敷いたレールの上に立つ事が嫌いだから。


(あの時、あいつが言った事、本当に……本当なんだったら)


 さっきは、思い出せなかった。これはあたしの失態だ。あまりに一瞬の出来事で、どうしようもなかった―――なんてのは言い訳に過ぎない。
 それでも。思い出した今こそ、その時ではないのか。


(……思い出せ。思い出せ暮宮円。あいつが名乗った名前を。その、名前は―――!)


 思考する。一人の女性が名乗った名を、脳裏に蘇らせる為に。
 そう、その名は。


「アーチャーッ!!」


「―――!?」


 喉が潰れるぐらいの大声で、あたしはさけんだ。
 あいつが名乗った名前を。多分偽名だろうけど、それでもあいつを呼ぶ為に必要なその名を。
 隣に立つ女性―――間桐桜は、唐突な出来事に驚きを見せていた。


 ふいに、右手の甲に鋭い痛みが走る。
 それと同時に―――ほぼ間もなく、目の前に「それ」は現れた。


「―――お呼びですか、マスター」


 ―――「あいつ」だった。
 呼んで数秒とかからず、「アーチャー」は光とともにこの場へと駆けつけたのである。
 軌跡だろう、と思った。
 本当に来た。呼べば必ず駆けつける、そう言っていたこの女性は、本当にやってきたのだから。


「……今は正直、あんたのことも何も解ってない。だから簡潔に言うよ、アーチャー。―――あの男を殺せ。あの金髪よりも先に。あたしの代わりに、あたしとして!」


「了解。すぐに片付けます」


 突然現れたアーチャーを目に、まさか―――と言った表情でそれを見つめる間桐桜。あたしは説明する暇もない―――いや、説明できないから仕方が無いけれど―――と言った風に彼女の視線を無視して、アーチャーに命令した。
 あたしが、こいつのマスターとかなんだとするなら。
 間桐桜が、あの金髪の少女にしたように出来るはずだ。


「円さん、貴女は―――」


「―――あたしは、ただ自分で敵を討ちたいだけなんだ。だから邪魔はしないで下さい、桜さん」


「……そうですか。―――セイバー、退いて。そのままじゃ、あなたまで巻き込まれてしまう」


 何かを予感したかのように、間桐桜はそう言った。
「巻き込まれる」―――と。


「は―――? サクラ、今、何と……?」


 金髪の少女は、殺人鬼を逃がさないように気を配りながら、意味が解らないと言った風に返した。


 そして。
 その疑問に返したのは―――間桐桜ではなく、アーチャーだった。


「退きなさいセイバー。その位置だと、アサシンごと打ち抜きかねない」


 ―――その瞬間。
 アーチャーの手には、一つの大きな弓のようなモノが構えられていた。


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